エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)とは

エコノミークラス症候群は、正式には「深部静脈血栓症(DVT)」および「肺塞栓症(PE)」と呼ばれる病気です。車中や座席など狭い場所で長時間同じ姿勢のまま足を動かさずにいると、足の深い部分にある静脈の血流が滞り、血のかたまり(血栓)ができます。この血栓が血流にのって肺まで運ばれ、肺の血管を詰まらせてしまうことがあり、これが肺塞栓症です。命に関わることもある病気です。

飛行機のエコノミークラス座席で起こりやすいことからこの名前がついていますが、車中泊や避難所での雑魚寝、長時間のデスクワークなど、同じ状況が起これば誰にでも発症する可能性があります。

熊本地震で明らかになった、災害関連死とエコノミークラス症候群の関係

内閣府がまとめた「災害関連死事例集」および熊本県の報道資料によると、2016年の熊本地震では218名が災害関連死として認定されています。死因の内訳を見ると、呼吸器系の疾患(28.9%)と循環器系の疾患(27.5%)で全体の半数以上を占めており、亡くなるまでの原因としては「地震のショック・余震への恐怖による肉体的・精神的負担」(40.0%)に次いで、「避難所等生活の肉体的・精神的負担」(28.9%)が多く挙げられています。

熊本地震における災害関連死の主な原因(内閣府調査・218名、複数回答)
  • 地震のショック、余震への恐怖による肉体的・精神的負担:112名(40.0%)
  • 避難所等生活の肉体的・精神的負担:81名(28.9%)
  • 医療機関の機能停止等による初期治療の遅れ:46名(16.4%)
  • 電気・ガス・水道等の途絶による肉体的・精神的負担:14名(5.0%)

この調査に掲載された個別事例の中には、避難所が混雑していたために車中泊を選んだ末に体調が急変したケースが複数含まれています。実際にどのような経緯だったのか、内閣府の資料から一部をご紹介します。

実際に報告された事例(内閣府「災害関連死事例集」より要約)
  • 80歳代男性(地震):避難所を利用せず、長男夫婦とともに車中泊を継続。車内に布団を敷くなど工夫したが効果は限定的で、被災5日後の早朝に車外で倒れているところを発見され、肺梗塞のため死亡。「車中泊による避難生活が身体的・精神的負担となった」として災害関連死に認定。
  • 80歳代男性(台風):自宅が床上浸水し8時間以上水に浸かった後、避難所や親族宅を転々とする中で足のむくみが悪化。被災者用住宅への入居直後に「エコノミー症候群」と診断され、酸素吸入器を使用しながら在宅療養を続けたが、被災から約3か月後に呼吸不全のため死亡。
  • 100歳以上女性(地震):自宅駐車場や近所の倉庫で計5日間の車中泊を継続。入院後、肺炎とともに下肢静脈血栓が確認され、慢性心不全の悪化により死亡。

出典:内閣府「災害関連死事例集(増補版)」、熊本県「震災関連死の概況について」(令和3年4月9日公表)

どんな時に発症しやすいか(リスクが高まる状況)

  • 避難所が混雑していて横になれず、車中泊を選んだ場合
  • 避難所で床に直接雑魚寝し、長時間同じ姿勢が続く場合
  • トイレの回数を減らそうと、水分を控えてしまう場合
  • 断水・停電などで身体を動かす気力が湧かず、座ったままの時間が長くなる場合

さらに、次のような方は普段の生活でも血栓ができやすいため、災害時は特に注意が必要です。

エコノミークラス症候群になりやすい方(厚生労働省研究班の資料より)
  • 高齢の方
  • 下肢静脈瘤がある方
  • 下肢の手術歴・骨折等のけががある方
  • がん(悪性腫瘍)の既往がある方
  • 深部静脈血栓症・心筋梗塞・脳梗塞の既往がある方
  • 肥満の方
  • 経口避妊薬(ピル)を使用中の方
  • 妊娠中または出産直後の方
  • 糖尿病・高血圧・高脂血症など生活習慣病のある方

見逃したくない症状のサイン

次のような症状がある場合は、深部静脈血栓症・肺塞栓症の可能性があります。無理をせず、早めに医療機関を受診してください。

こんな症状が出たら受診を
  • 片足だけのむくみ・痛み・赤み(太もも〜すねにかけて)
  • 歩いた時の息切れ
  • 胸の痛み
  • 呼吸困難
  • 一時的な意識消失(失神)

今日からできる予防法

厚生労働省の研究班や国立循環器病研究センターの資料では、次のような予防法が推奨されています。車中泊や避難所生活だけでなく、長距離移動や在宅ワークの合間にも取り入れられる内容です。

予防のポイント
  • 長時間同じ姿勢を避ける(特に車内などの窮屈な姿勢)
  • 足を動かす:足首を回す、かかとの上下運動を1時間に1度20〜30回程度
  • 歩く:1〜2時間に一度は3〜5分程度歩く
  • こまめな水分補給(トイレを気にして我慢しない)
  • 時々深呼吸をする
  • アルコールを控える・禁煙する
  • ベルトをきつく締めず、ゆったりした服装で過ごす
  • ふくらはぎのマッサージを行う
  • 就寝時は可能であれば足を少し高くする

避難所では周囲に気を遣って水分や歩行を控えてしまいがちですが、「足を動かす」「水分を摂る」の2つだけでも意識するだけでリスクを下げられます。家族や周りの方同士で、お互いに声をかけ合うことも大切です。

日頃からの備えとして薬局でできること

災害時は持病の薬を持ち出せず、服薬が中断してしまうケースも多く報告されています。お薬手帳を携帯用ポーチや非常持ち出し袋に入れておくと、避難先でもこれまでの薬の情報を薬剤師や医師に正確に伝えることができます。お薬手帳の活用法については、お薬手帳を持つ3つのメリットもあわせてご覧ください。

弾性ストッキングの使い方や、持病がある方の災害時の備えについて気になることがあれば、よつば薬局の薬剤師にお気軽にご相談ください。

防災グッズ・非常持ち出し袋に入れておきたいもの

地震や台風などの災害はいつ起こるか分かりません。エコノミークラス症候群の予防という観点からも、非常持ち出し袋に次のようなものを備えておくと安心です。

  • お薬手帳・お薬のコピー:持病の薬を正確に伝えるために必須です
  • 普段飲んでいる薬(最低3〜7日分):災害時は薬局・病院がすぐに機能しないことがあります
  • 弾性ストッキング:車中泊や避難所での血栓予防に役立ちます
  • 経口補水液・OS-1など:水分と塩分を効率よく補給できます
  • ふくらはぎ用のクッションや丸めたタオル:車中泊時に足を高くするために使えます
  • 飲料水:水分摂取を控えてしまうことがないよう十分な量を準備しましょう

防災グッズの準備や、持病の薬を災害時にどう管理すればよいかなど、地震・災害への備えについて分からないことがあれば、よつば薬局の薬剤師までお気軽にご相談ください。

よくある質問

飛行機に乗らなくてもエコノミークラス症候群になりますか?

はい。エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)は飛行機に限らず、車中泊や避難所での雑魚寝、長時間のデスクワークなど、長時間同じ姿勢で足を動かさない状況であれば誰にでも起こり得ます。実際に災害時の車中泊がきっかけで発症した事例が複数報告されています。

避難生活で特に注意すべき人はどんな人ですか?

高齢の方、下肢静脈瘤がある方、下肢の手術歴やけがのある方、がんの既往がある方、以前に血栓症・心筋梗塞・脳梗塞を起こしたことがある方、肥満の方、経口避妊薬を使用中の方、妊娠中または産後まもない方、糖尿病・高血圧・脂質異常症など生活習慣病のある方は特に注意が必要です。

どんな症状が出たらすぐに受診すべきですか?

片足だけのむくみ・痛み・赤みが出た場合や、歩いた時の息切れ、胸の痛み、呼吸困難、一時的な意識消失などの症状が出た場合は、深部静脈血栓症・肺塞栓症の可能性があるため、早急に医療機関を受診してください。

地震・災害時に薬局でできる備えはありますか?

お薬手帳を非常持ち出し袋に入れておくことで、避難先でも服用中の薬を正確に伝えられます。また、災害時は薬局や病院がすぐに機能しないこともあるため、普段飲んでいる薬を数日分多めに準備しておくと安心です。防災グッズの準備や持病薬の管理方法について、よつば薬局の薬剤師にお気軽にご相談ください。

この記事のポイント

  • エコノミークラス症候群は車中泊・避難所生活でも起こる。飛行機だけの病気ではない
  • 熊本地震では218名が災害関連死に認定され、車中泊をきっかけとした発症事例も報告されている
  • 予防の基本は「足を動かす」「こまめな水分補給」の2つ
  • 片足だけのむくみ・痛みや胸の痛み・息切れがあれば早急に医療機関を受診
  • お薬手帳・持病の薬・弾性ストッキングなどを非常持ち出し袋に入れておくと、地震・災害時も安心

持病がある方の災害への備えもご相談ください

お薬手帳の準備や避難時に持ち出す薬について、よつば薬局の薬剤師がサポートします。

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参考資料

※ 本記事は上記の公的資料をもとに作成していますが、症状に心当たりがある場合は自己判断せず、医療機関または薬剤師にご相談ください。